研究ブランディング事業

水都-基層構造

プロジェクトリーダー教員紹介

高村雅彦

1964年、北海道生まれ。法政大学大学院博士課程修了。2008年より法政大学デザイン工学部建築学科教授。専門はアジア都市史・建築史。1999年前田工学賞、2000年建築史学会賞を受賞。2013年上海同済大学客員教授。主な編著書に『水都学Ⅰ~Ⅴ』(法政大学出版局、2013年~2016年)、『タイの水辺都市-天使の都を中心に-』(法政大学出版局、2011年)、『中国江南の都市とくらし 水のまちの環境形成』(山川出版社、2000年)などがある。

Photo:Hiroshi Aoki


研究プロジェクト内容

(1) 研究プロジェクトの目的

水辺は都市の財産であることを知り、東京にしかない歴史と風景の集積を総合的に明らかにして、それを活かした新しい都市ビジョンを示すことが、このプロジェクトの目的です。とくに、江戸東京が長く生き続けるその理由と意味を解明するために、これまであまり注目されてこなかった古代・中世から綿々とつながる大地や自然と結びついた都市と地域の基層構造の解明を追求していきます。

水の脅威を感じながらも、その空間が本来持っている多義性を十分に享受した時代から、次に水を積極的に利用して工業化を推し進めた時代を経て、いったん水から離れた後にその空間の豊かさを取り戻すための試みが蓄積されつつある現在。環境の時代といわれる21世紀に、自然の恵みとよりよい共生の関係をいかに保ちながら多彩に付き合うことができるか。いま、水から身を守り、同時に水の恩恵をふんだんに得てきた江戸東京の多様な水辺を対象に、都市と地域の歴史、そしてその再生への可能性を探る時代が到来しています。初代センター長の陣内秀信とともに提唱した〈水都学〉では、世界の水都を対象に、河川や運河、港湾の機能と役割、環境や生態、また防災、制度といった、過去と現在のそれらを取り巻く多様な観点からの論考を積み重ねてきました(陣内秀信・高村雅彦編『水都学Ⅰ~Ⅴ』法政大学出版局、2013年~2016年)。そこでは、単に対象としての水都の魅力を掘り起こそうとしたのではなく、都市を解読し、新たな視点を見出し、時代を読んで、次へと更新するための横断的な研究方法としての〈水都学〉の確立を目指しました。

その過程で、次に重要な視点として浮かび上がってきたのが、古代・中世という時代と地形や地質と結びついた、いわゆる基層構造でした。自然の地形や地質を根底に、それと結びつく人文的な文化の基層がその上に形成され、それらが後の都市と地域のコンテクストや仕組みのベースをなして人々の営みが展開する。そこでは、常に水が中心的な役割を担ってきたのであって、こうして捉えることで、水都をより正しく理解できるのではないかと考えています。目に見える物質的なものを工学や技術の面から明らかにするだけでなく、水が本来持つ精神性とどのように結びついて、いかなる地形や自然からの影響を受けて都市や個々の場が成立、形成されたのかを探ることがいま求められています。

(2) 期待される研究成果

現代の東京を対象として、水資源・水環境の視座も取り入れつつ、文化的景観の価値を再発見し、江戸が誇る庭園文化の意味をも考えながら、実践的なアクションを展開し本学のブランディングの形成につなげていきます。江戸東京は、他のアジアの水都と似て、現代を含む各時代の歴史の層がいくつも重なり全体が組み立てられています。それらは、統一された水際のデザインというにはほど遠く、むしろバラバラでときに雑然として評価しにくいケースが多いのも事実です。しかしながら、再生・活用の仕方によっては、かえって背景に多様で歴史の深みを持つダイナミックな空間として生まれ変わる可能性を秘めています。水辺空間の時間をひとつの時代に留めて現代に見せるのではなく、部分ごとに試行錯誤を繰り返しながら、時間の経過ごとに個々の条件に応じて継承し続けたそのプロセスに着目すれば、江戸東京の水辺のあるべき将来も見えてくるはずです。水都としての東京のこれからをより豊かに持続させるための実践的な研究が成果として結実することを目指します。

こうして、自然条件、とくに豊かな水系を基盤とした有機的な都市と地域の関係を解明して、歴史・環境・文化を生かした今後の東京のビジョンを示すとともに、自然と共生する21世紀にふさわしい都市づくりの理念と手法を日本モデルとして海外に発信することが最も重要かつ最終的な成果として期待できます。このプロジェクトは、そのための開かれたプラットフォームづくりの一翼を担います。

(3) ブランディング戦略について

現在,当プロジェクトが想定している明確なステークホルダーへのブランディング戦略として、「歴史エコ廻廊」「グリーンインフラ」「エコツーリズム」など、水都江戸東京の特性を活かした構想を提案し、また大学やホテル内に生き続ける庭園や特徴ある水辺・緑地などのマップ化を実現し、その成果を広く公開していきます。

こうした学術研究の成果だけでなく、膨大な情報を蓄積してきた東京にある多くの区立・市立の歴史博物館のネットワーク化を図り、またこれまで築いたいくつかの区市町村との連携を活かしていくことも重要です。

とくに、外濠を対象に、周辺に在住・在職する市民や立地する企業、地元の中学・高校や商店会が一体となって地域の将来に取り組む「外濠市民塾」をより活発化させることが大きな成果として期待できます。同時に、法政大学の市ヶ谷、小金井、多摩の3キャンパスと、三鷹、武蔵小杉、生麦の3中学高等学校からなる6つの教育拠点を融合させながら、水源と水路で相互に結ばれた個々の地域特性を掘り起こすためのプロジェクト型教育を実践します。


各年度の年次目標及び実施計画

2017(平成29)年度

古代から現在に至る地形や河川など自然環境を基盤として、その上にいかなる地域が形成されてきたのかを探ることが目標となります。江戸市域のみならず、古代から現代に至る地形や河川などの地域全体の自然環境がどのように影響し、古道や聖地、国府がそれと関連していかに成立したかなどを明らかにしていきます。

その成果発表として、2018年1月20日(土)に法政大学において、シンポジウム「江戸東京の基層-古代・中世の原風景を再考する」を計画・実施しました。古代・中世・近世に至る国府や葛西の意味、聖地と名所の関係について、登壇者に加えて170名あまりの参加者とともに活発なディスカッションがなされ、大きな成果を得ることができました。

また、初年度から、千代田学などの自治体との連携、外濠市民塾による地元の企業、商店会、中学高校、住民とのプロジェクトを実施し、本事業のブランド化を推進していきます。

2018(平成30)年度

平成29年度目標の水都の基層構造に関する研究をより深めるために、江戸東京における多様な水の空間の類型化について、具体的な対象に焦点を当てながら明らかにすることが目標となります。

古代からの自然環境と密接に結びつきながら、用水・舟運に寄り添う水辺空間にいかなる類型が見出せるのか、とくに水の聖地と信仰の空間とその象徴化、庭園を中心とした水と緑の空間の継承の意味に関する研究を実施し、古代から現代に至る江戸東京の特質をあぶりだすことが重要な計画となります。

また、学内における3キャンパス3中高による水と地域の教育研究プロジェクトを実施し、このプログラムを本事業のブランディングのひとつとして位置づける作業を開始することも欠かせない主要な計画となります。

(平成29年度外部評価及び自己点検・評価等をふまえた内容へ見直し後)
◇年次目標
  おおむね評価が良好であったことから、大きな変更はせず当初の予定通り粛々と進めていきます。
本プロジェクトでは「多様な水の空間の類型化と可視化」について解明し、〈テリトーリオ〉の思想を中心に据えながら新たな水都史の方法を探ることを年次目標とします。江戸東京の都市空間は、人工と自然の組み合わせ方、自然と一体となった名所・宗教空間・庭園、日本に特徴的な商店街や盛り場の在り方など、西欧都市や他のアジアの都市では見られない明確な特性を備えていると考えられます。それを多角的な視点から明らかにすることが具体的な目標となります。
◇実施計画
  「水都-基層構造」プロジェクトでは、古代からの自然環境と密接に結びつきながら、用水・舟運に寄り添う水辺空間の類型化、水の聖地と信仰の空間と象徴化、庭園を中心とした水と緑の空間の継承の意味を明らかにします。
そして、学内外の研究者や地元住民、学生など様々なステークホルダーを取り込みながら事業を推進し、その成果をホームページ等で積極的に公開していくことが実施計画のうえで最も重要となります。

◇成果指標と達成目標
2018年度における本プロジェクトの達成指標および目標は以下の通りです。
・前年度ならびに今年度の研究成果10編を目標に学会等で発表。
・江戸の水辺の演能空間の関する報告書1冊を刊行。
・前年度から継続している古代中世の基層構造と水都の考察を深めるため、その関連研究者による研究会を3回開催。
・本事業を本学の中高大に意識付けし、相互の連携を図り、インナーブランディングとして確立することを目指して、総合会議ならびに年度末に学生による研究会をそれぞれ1回開催。
・外濠市民塾において、地元企業、行政、学校、商店会との連携を図るため、イベントを2回開催。
(平成29年度外部評価及び自己点検・評価等をふまえ,具体的内容を再設定。)

2019(平成31)年度

平成29・30年度の古代・中世や自然地形といった基層構造の分析により、近世以降のいわゆる中心部だけではなく、実際には江戸東京をより広くとらえなければならないということが明らかになると仮定しています。そこで、都市と地域のテリトーリオと文化的景観に焦点をあてて研究を進めることが目標となります。

江戸市域に限定せずに、その繁栄を支えた後背地や近郊農村をつなげて分析するテリトーリオの方法を用いて研究を実施し、江戸東京の全体を水と地域形成の視点から再読することが主な計画です。同時に、生活や生業、風土により形成された文化的景観を意味づけていく作業も重要かつ具体的な実施計画となります。

2020(平成32)年度

前年度までの基層構造、テリトーリオ、文化的景観の研究成果を受けて、次に水との関係に見る都市性の在り方を世界の都市との比較のなかで相対化し、明確に示すことが目標となります。

江戸東京を最も特徴づける水都としての様々な視点を世界の都市に投影して比較する研究を実施し、東京の独自性をより明確に打ち出すことが計画となります。

2021(平成33)年度

この最終年度は、各プロジェクトの枠を取り払い、これまでの4年間にあげた成果を整理して、より明快な方法をとって、とくに視覚化できる形でまとめ示すことで、本事業のブランドの高度化を目指し、それを世界に向けて発信することが全体の目標となります。平成29年度に設立した江戸東京研究センターを世界的な拠点に押し上げるべく、研究とブランド力を深化させ、全面展開することを追求します。

具体的には、江戸東京研究の世界拠点を標榜する重点国際シンポジウムを開催し、またブランドの高度化の手段として、環境・文化インフラとして水辺をつなぐ「歴史エコ廻廊」「グリーンインフラ」の構想図、サブカルチャーやアニメなどの新たな東京のイメージや庭園(大学内、ホテル内も含む)、特徴ある水辺・緑地のマップ化を実施し、江戸東京の特性を活かした実践的なアクションプランを提案することが主な計画です。さらに、成果を集約し、一般に広く公開するために、いくつかの書籍の刊行を実施することも重要な計画のひとつです。

そして、この最終年度に、各年度のシンポジウム参加者数やホームページアンケートの評価に現れた質・量に関する達成度の測定を経年比較のなかで分析し、本事業のブランディングの完成度を学内外に表明することが評価・点検のために欠かせない計画となります。


@ Hosei University
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