研究ブランディング事業

テクノロジーとアート

プロジェクトリーダー教員紹介

安孫子信

1951年生まれ。専門は哲学、フランス思想史。京都大学大学院修了。1996年より法政大学文学部教授。主な編著書にMécanique et mystique (OLMS, 2018)、『ベルクソン『物質と記憶』を解剖する』(書肆心水、2016年)、Bergson, le Japon, la catastrophe (PUF, 2013)、『デカルトをめぐる論戦』(京都大学出版会、2013年)などがある。


研究プロジェクト内容

(1) 研究プロジェクトの目的

人間が自らを取り囲むモノや自然に、実用を目的に働きかける手段が技術であり、その技術の延長線上で、土器にそれとしては無用な縄目を付けるように、実用を超えて働きかけるに至った際に生み出されるのが芸術である。アートの一語はこうして広く、技術と芸術とを指し示すことになる。都市はこのようなアートの産物であり、特に近代以降、西洋においては、モノや自然に徹底して数量化や合理化をもって臨む近代科学技術の主導の下に近代都市が生みだされていった。そして、近代都市で栄えた芸術も大きくはその流れに沿ってのものであったといえる(キュビズム、未来派、アブストラクト、構成主義、機能主義)。それは空間においては、それぞれの部分が分かちがたく結び付いている有機的な全体、つまり自然を排除し、時間においては、前もっての計画には決して明示的に織り込みえない記憶、つまり歴史を忌避する。は質を退けることを意味する。このような近代に対して折々に批判として繰り出されていった超近代(ポストモダン、脱構築)も、自然や歴史をアナクロニックに復旧させる愚(それは確かに愚行だが)を避けることに忙殺され、自然や歴史を前進と生成のうちで回復させるまでには至らなかった。

さてこれが西洋近代のアートのあり様だとして、同じ西洋のアートを、明治以降、東京はきわめて忠実に学び導入していったのである。しかし自ら意図したことではなくて、おそらくは、いわば持ち前のレジリエンス(回復力)によって、東京は、その西洋のアートを撓(たわ)め、西洋のアートと独特の-他に例を見ない-共存を果たして今日に至ってきたと考えられるのである。そのアートとの関係での東京のユニークさを、歴史的な、また今日の、多々の事例のなかで検証し確認していくことが本研究の目的である。さしあってのことでいえば、ロンドンにロンディニウムはもはや存在しないとして、東京は江戸東京であって、単に東京なのではない。すなわち、歴史が忌避されていない。また、世界の大都市がほぼ士農工商のうちの士商だけからなるところ、東京は本質的に水都のため士農工商が今日でも共存している。すなわち、自然が排除されていない。しかもこのような歴史や自然は、後ろ向きにアナクロニックに留まっているのではなく、それらは生成変化(メタボリズム)のうちで息づいている。歴史や自然は、博物館や記念公園ではなく、東京のもっとも新しい街並みにこそ見出されるのである。そして、そのメタボリズムを支えているのがアートである。それはもはや文字通りに西洋のアートなのではなく、他に類を見ない東京のアートなのである。その東京のアートの全体像に迫ることが本研究の目的となる。

(2) 期待される研究成果

アート(テクノロジーと狭義のアート)との関連での東京のユニークさが幅広い事例を通して、示されていく。

たとえば、①近代以降の東京における工(産業集積)の特徴がどのようなものであり、それが一面で空洞化していく際に、決してスラム化せず、文化的に生成変化していっている様が明らかにされる。②東京で展開されている現代芸術が、多くの異文化に自らを開きつつ、にもかかわらず日本らしさを絶えず産出し続けている、その特徴が明らかにされる。③あたりまえの家屋や街並みで古びてしまったものを壊さずあえて活かして、そこで最先端のアートの展覧会を行ったり、パブリック・スペースとしてそれのリノベーションを図ったりする、芸術や建築運動の実態が明らかにされる。④一見徹底した合理性を欠くように見える東京の都市開発や市街地整備の様を、たとえば交通手段やコミュニケーション・システムの巧みな用いられ方といったアートの面から明らかにする。⑤現在東京でロボットがきわめて人間的に用いられている風景の実態と特徴を明らかにする。⑥東京のこれまでの戦災や災害後の復興や、今後のそれへの予防ということでの、アートの使用や適用の特徴を明らかにする。⑦東京のアモルフな全体をあえて一つのアート作品と見なした場合の、その特徴を明らかにする。

こうして、現在の東京を歴史や自然とつなげ息づかせているメタボリズムを支える様々なアートの実態を、世界の他都市との比較も行って、徹底して解明することが行われる。

(3) ブランディング戦略について

本学のブランディングの核となる言葉は「持続可能性」である。研究と教育を通じて、持続可能な人間社会の構築を目指すことを、本学は社会に対する最も重要な約束として掲げている。

今回の江戸東京研究も直接、この約束に結びついており、この第3プロジェクトが目指すこともその約束の履行に他ならない。なぜなら、人間や都市の持続可能性の鍵を握っているのが、テクノロジー、さらに広くアートだからである。人類の歴史において、テクノロジー、さらに広くアートが、まずは無機的な自然に向かい、ついで有機的な自然に向かい、そして人間や社会そのものに向かって良き力を揮ってきたことは確かである。われわれの今日の生活も多くその恩恵に浴して成り立っている。しかし、そのテクノロジー、さらに広くアートの力が、人間や社会、さらには自然に害をなし、その生存を脅かす事態を引き起こしつつあることも否めず、そのことから、まさに、「持続可能性」の問題も深刻な仕方で生じてきたのである。テクノロジーとアートの時代の幕開けである近代の劈頭に立って、「すべて進歩によって改善されるものは、同じく進歩によって滅びる」と喝破したのは天才科学者であり思想家であったパスカルである。本学のブランディングはこのパスカルの言辞を挑戦として受けとめて、それにあえて「持続可能性」で答えようとするものであるが、第3プロジェクトも、江戸東京におけるテクノロジーとアートの実践の中に、この巨大な問いへの答えの手がかりを得ようとするのである。


各年度の年次目標及び実施計画

2017(平成29)年度

各実例の枚挙と、詳しい調査研究を行っていく代表例の選定。他のプロジェクトとの連関を確立するための全体でのシンポジウムの実施。

2018(平成30)年度

選定された各例の実証的な調査。調査結果に基づく暫定的な研究成果報告を、研究会やコロキウムを通じて相互に交換しつつ、プロジェクト全体として大きな成果を求めていく研究の方向性を、主に内からの視座に依拠しつつ確立していく。

(平成29年度外部評価及び自己点検・評価等をふまえた内容へ見直し後)
◇年次目標
  江戸東京が西洋からの近代化圧力をどう受け止め、それにどう抵抗しかつそれをどう活かしていったのか、その際の、とくに「テクノロジーとアート」と、自然や文化・歴史との関係はどのようなものだったのか、それを一方で大局的・俯瞰的に吟味しつつ、他方で近現代の多々の具体例に即して詳しく見ていくことが、本年度の活動の目標となります。
◇実施計画
  上記の課題をまず大局的・俯瞰的に見ていくことでは、7月に「ユニークさ」プロジェクトと共同で、国際シンポジウム「風土(Fudo)から江戸東京へ」を実施することがすでに決定しています。他方、上記課題を多々の具体例に即して見ていくことでは、まず「アート」の面での諸例の集約検討を、グループ全体での研究集会「アートにとって東京とはなにか」を11月に実施して行う予定です。また「テクノロジー」の面での諸例の集約検討を、やはりグループ全体での研究集会「江戸東京とテクノロジーの関わり」を来年3月に実施して行う予定です。その間、隔月に1回程度の研究会で、諸例を個々に扱って検討する作業を積み重ねていく計画です。このことではすでに第一回研究会(「大澤啓氏を囲む研究会」)を5月に実施しました。

◇成果指標と達成目標
以上の目標と計画の達成度は、重点シンポジウムや研究会の開催数、また関連研究論文の発表数や、シンポジウム報告書の刊行数で測定していきます。達成目標は、重点シンポジウムが2回、研究会が5回、研究論文発表数が5本、シンポジウム報告書が2冊となります。
(平成29年度外部評価及び自己点検・評価等をふまえ,具体的内容を再設定。)

2019(平成31)年度

比較対象となりうる諸外国都市の諸例の調査。調査結果に基づく暫定的な研究成果報告を、研究会やコロキウムを通じて相互に交換しつつ、プロジェクト全体として大きな成果を求めていく研究の方向性を、主に外からの視座に依拠しつつ確立していく。

2020(平成32)年度

選定された各例それぞれの特徴の理論的まとめ。内外の調査結果を、内外二つの視座を交差させつつ精査していく。これまでにすでに素描されてきている、プロジェクト全体として大きな成果を求めていく研究の方向性を、その精査の下で確定していく。

2021(平成33)年度

大きな成果を求めていく研究の方向性はすでに確定しており、それに基づいて、各例の理論的まとめを総合しての、江戸東京のテクノロジーとアートの本質の解明を行う。


@ Hosei University
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