平成29年度の〈年次共通テーマ〉は、「江戸東京の基層構造に関する研究ならびに事業インフラの整備」を事業目標とする。研究の前提条件としての自然環境や江戸前史を深く理解する。まず研究活動では、スタートアップを意識して、本事業の準備段階のワークショップ等で検討、抽出してきた各研究プロジェクトの視点について研究者全員で精査し、様々な視点が相互にいかなる関りを持って成立、形成されているのか学際的な観点から全体の構図を俯瞰して再度確認することが最初の重要な作業となる。
それを踏まえて、各研究プロジェクトは、①水都-基層構造では「古代から現在に至る地形や河川など自然環境に関わる考察」、②江戸東京の「ユニークさ」では「武蔵野を意識した江戸東京圏の研究」、③テクノロジーとアートでは「東京が達成しているものの具体例の枚挙と代表例の選定」、④都市東京の近未来では「国内の次世代都市研究拠点との連携、都市問題の確認、東京近未来研究の位置づけ」について、それぞれ明らかにすることを目標とする。
ブランディング戦略としては、江戸東京研究を本学のブランドとして位置づけようとする本事業の周知のため、学内外における当該研究者の有機的な協同関係ならびに国内外の博物館や他研究所等とのネットワーク構築、事業説明会やシンポジウムを開催し、本事業全体のインフラを整備することが目標となる。
①水都-基層構造では、江戸市域のみならず、その繁栄を支えた後背地や近郊農村を含む地域を対象に、古代から現代に至る地形や河川などの自然環境がどのように変化し、聖地がそれと関連してどこに成立したかなど、様々な地図を多数作成しその意味を考察する。②江戸東京の「ユニークさ」では、江戸成立以前の前史をふまえつつ、江戸東京がいわゆる都市的なエリアだけではなく広大な武蔵野を抱えていることを、この都市の個性として再考・再評価する。③テクノロジーとアートでは、東京の全体性、都市開発と市街地整備、産業集積、現代建築、現代美術、民生用ロボットの6つの視点から、その具体例の徹底的な枚挙を実施し、研究対象の選定を行う。④都市東京の近未来では、近代化以降、経済活動を中心とした都市形成が進行し都市空間の均質化と分断という問題が指摘されているなかで、東京という都市の評価、近未来都市研究の領域の確認と策定をおこなう。
ブランディング戦略の年次計画として、目標に求められる達成度評価の指標ならびに実施計画における目標達成度の測定方法は、「3.ブランディング戦略」の「⑦成果指標と達成目標」および「⑧進捗状況の把握方法」に詳しく記載しており、また研究活動において毎年次に評価対象となる研究会の開催数、投稿論文数、報告書の刊行、評価委員会からの改善・修正に対する検討状況など共通する事項以外で、その年次に特有の対象のみを記すこととする。
ネットワーク構築、事業説明会やシンポジウムの開催、学際的に構成された評価委員会の設置が実際に実施できたかが測定方法となる。とくに、本事業の主旨を開示するため、(仮称)江戸東京研究センター設置記念シンポジウムの開催が重要な実施計画となる。また、フライヤーを作成し、イベントやシンポジウムで配布して本事業の認知を計画する。専用ホームページの公開と充実は、様々なステークホルダーに対して成果を寄与しながら、持続可能な地球社会の問題を学びつつ諸問題に活用するための〈実践知〉をお互いに身につけるといったブランディング戦略と結びついており、そのためのインフラが作り出されているかを測定する指標となる。
平成30年度の〈年次共通テーマ〉は、前年度の成果のうえにたって「江戸東京の都市空間の特性に関する研究と〈実践知〉を生かした事業参加拡大」を事業の目標とする。江戸東京の都市空間は、人工と自然の組み合わせ方、自然と一体となった名所・宗教空間・庭園、日本に特徴的な商店街や盛り場の在り方など、とくに西欧都市や他のアジアの都市では見られない明確な特性を備えていると考えられ、それを多角的な視点から明らかにすることが目的となる。各研究プロジェクトは、①水都-基層構造では「多様な水の空間の類型化と可視化」、②江戸東京の「ユニークさ」では「江戸東京の名所・景観研究」、③テクノロジーとアートでは「選定された各代表例の実証的な調査」、④都市東京の近未来では「世界の次世代都市研究拠点との連携、都市問題の確認、東京近未来研究の位置づけ」について、それぞれ解明する。
ブランディング戦略として、研究活動の目標は文化力のアップや江戸東京のブランド化に直接つながるものであって、本学のブランディング戦略に最も寄与するテーマとなる。実際に様々なステークホルダーと連携しながら事業参加拡大を図り、協同して事業を進めつつ、同時に各対象者がその成果の価値を自覚しながら地域に貢献するための基礎的研究となることを目指す。この年度には、前年度の成果をもとに江戸東京の基層構造に関する重点シンポジウムを開催する。
実施計画として、①水都-基層構造では、古代からの自然環境と密接に結びつきながら、用水・舟運に寄り添う水辺空間の類型化、水の聖地と信仰の空間と象徴化、庭園を中心とした水と緑の空間の継承の意味を明らかにする。②江戸東京の「ユニークさ」では、江戸東京の地誌やガイドブック、名所絵、文芸など、文字や絵、写真に表象された江戸東京の名所の歴史をさぐり、現代東京のユニークさを発見する手がかりを見出す。③テクノロジーとアートでは、6つの視点で選定された個々の代表例において、自然や歴史を無機的に排除する方向には働かず、むしろそれらに新たな生成発展(メタボリズム)をもたらしている様を多角的、実証的に明らかにしていく。④都市東京の近未来では、現代都市(ジェネリックシティ)の均質化と分断を社会的問題とする世界の研究機関と連携し、その問題群の解明をおこない、社会的視野も加えながら、固有の都市文化を示す東京という都市の実相を明らかにする。
ブランディング戦略としては、この年次から本格的に事業の目標を多様なステークホルダーと共有することが重要な計画となる。本学の研究ビジョンと社会貢献のビジョンに明記された「持続可能な地球社会の構築」や「ユニークな研究拠点の形成」の「センターとしての役割」を果たし、また「地域の力を引き出す大学」として、教育のビジョンに示された「能力を引き出して育て」、「地域の多様性に触れる経験」を通し「実践知を身につける」ことを目的とするプロジェクト教育を実際に実施したかが評価の測定方法となり、江戸東京研究のブランド化を明確に示す好機となる。さらに、前年度から実施しているホームページを利用したアンケート調査やシンポジウムの参加者数がブランドイメージと認知に対する測定方法となる。
学内外に積極的に声がけして研究メンバーの増員をはかり、異分野との融合を意識した研究をすすめるのはもちろんのこと、学外の教育機関(中学、高校等)や一般市民向けのイベントや出版物の刊行を目指す。HPを有効利用し、随時情報発信を行う。
(平成29年度外部評価及び自己点検・評価等をふまえ,具体的内容へ見直し済み。)
平成31年度の〈年次共通テーマ〉は、「江戸東京の社会的・文化的特徴に関する研究と〈実践知〉を生かした市民・一般参加の拡大」を事業の目標とする。名所や祭りなどに見られる人間関係、世界が注目する住民中心のボトムアップ型まちづくりの在り方など、独特の基層構造の上に、江戸東京ならではの都市空間が創造され、そのなかで開花し、成熟し、アイデンティティとして明確な姿をとった東京が示す様々な社会的、文化的特徴を明らかにする。各研究プロジェクトは、①水都-基層構造では「都市と地域のテリトーリオと文化的景観」、②江戸東京の「ユニークさ」では「江戸東京の人口の増大と構成」、③テクノロジーとアートでは「東京での諸例の特徴を際立たせるための、比較対象となりうる諸外国都市の諸例の調査」、④都市東京の近未来では「東京の近未来街区モデルの策定、多方面のステークホルダーとの連携をはかる」について、それぞれ明らかにすることが目標となる。
ブランディング戦略は、様々なステークホルダーと連携しながら協同して事業を進める方法を継承しつつ、前年度よりも広範な市民・一般参加拡大を目標として、シンポジウムを開催し、本学が江戸東京研究の拠点としてブランド化を一段と推し進める目標となる。
(以下,平成30年度外部評価及び自己点検・評価等をふまえ,再設定)
外部評価、自己点検ともにおおむね高い評価を得たこともあり、学内の調整を経て平成33年度(2021年度)まで研究活動をすすめることが可能となった。平成31年度の〈年次共通テーマ〉は、「江戸東京の社会的・文化的特徴に関する研究の深化と〈実践知〉を生かした活動の継続」を事業目標とする。ヴェネチアでの国際シンポジウム等で研究をより深化させるとともに、研究内容を社会に還元する活動も継続する。
(以上,平成30年度外部評価及び自己点検・評価等をふまえ,再設定)
①水都-基層構造では、江戸市域に限定せずに、その繁栄を支えた後背地や近郊農村をつなげて分析するテリトーリオの方法を用いて、江戸東京の全体を水と地域形成の視点から解読し、同時に生活や生業、風土により形成された文化的景観を意味づけていく。②江戸東京の「ユニークさ」では、男性人口が多く、参勤交代や農村地方からの人口流入によって多様な人々が集合したという江戸の基本的な性格に注目し、人口の推移や構成の問題から江戸東京のユニークさを明らかにする。③テクノロジーとアートでは、諸外国の大都市における同様の、しかし異なる多様な事例の調査研究をおこない、東京が達成している自然と歴史の生成変化(メタボリズム)の特性を明らかにする。④都市東京の近未来では、人間の生活に豊かさをもたらす社会の実現とそれを支える都市構造について、近代以前の文脈を保持しつつ生成変化する東京の固有性という視点から明らかにする。
ブランディング戦略は、前年度の成果をベースとした都市空間の特性に関する重点シンポジウムを開催し、次年度の東京オリンピックをイメージしながら、ブランド化の認知をさらに推し進めることが重要な計画となる。これが実際にどのように実施されたのかを広く公開することに加え、参加者数、広報・メディア等の反応数をひとつの測定方法とし、ホームページアンケートの方法による達成度の分析もあわせておこなって、本学が江戸東京研究の拠点として認知されブランド化に成功しつつあるのか、その中間的な達成指標とする。
平成32年度の〈年次共通テーマ〉は、「江戸東京と海外都市との比較研究と海外連携強化」を事業目標とする。これまでの成果を統括的にまとめつつ、江戸東京の独自性をより強調するため、海外都市の比較を再度重点的におこない、現代の東京に見る固有性を世界に向けて発信するベースづくりをおこなう。各研究プロジェクトは、①水都-基層構造では「水との関係に見る都市性の在り方」、②江戸東京の「ユニークさ」では「江戸東京の名物」、③テクノロジーとアートでは、「諸外国大都市での調査結果との比較の上での、選定された各例それぞれの特徴の理論的まとめ」、④都市東京の近未来では「東京の近未来都市モデルを公表し検証する。その社会実装に向けた具体的作業」について比較検討することが目標となる。ブランディング戦略としては、江戸東京研究の国際比較を通して、本学の教育ビジョン「地域の多様性が有する価値を熟知しつつ、グローバルに思考する能力を育てること」を意識し、また研究ビジョン「持続可能な地球社会の構築を目指す研究の世界的拠点となること」、「国際的評価を有するユニークな研究拠点のさらなる発展を図ること」を企図して、本事業の成果を世界との間で共有するための海外連携強化が重要な目標となる。また、東京オリンピック開催にあわせ法政ミュージアム事業による特別展を実施し、江戸東京研究の魅力を国内外の人々に発信する。
①水都-基層構造では、江戸東京を最も特徴づける水都としての様々な視点を世界の都市に投影し比較研究することで、東京の独自性をより明確に打ち出す。②江戸東京の「ユニークさ」では、食べ物や特産品、おみやげなど名物を通じた江戸東京のイメージを国際比較のなかで探る。観光客が江戸東京でどこに行き、何を食べ、何を買うかは、地元民の気づかない江戸東京のユニークさを知る指標になる。③テクノロジーとアートでは、6つの視点のそれぞれにおいて、とくに自然や歴史との関係で、東京が有する抜きんでた特徴をメタボリズムの概念を軸に明らかにしていく。④都市東京の近未来では、世界のなかで先験的に都市課題に直面している東京という都市の近未来を策定し、世界の都市のひとつの規範となる具体的な空間の提案や社会実装にむけた研究成果を得る。
ブランディング戦略としては、初年度築いた海外研究機関等とネットワークを利用し本事業の認知を促し、同時に協力関係を構築し江戸東京研究を本学のブランドとして世界に発信することが実施計画となる。同時にホームページアンケートをおこない目標達成度の評価を客観的に測定する。また、前年度の成果を生かして東京の文化力に関する重点シンポジウムを開催する。この成果と前年度シンポジウム内容を合わせ、さらに完成した一部のマップも付けオリンピックで注目される東京の固有性を示した冊子を作成し江戸東京研究に関するブランド強化を図る。同時に、「江戸東京研究の特別展」を企画し、本事業の取り組みを広く広報し、ブランド形成の一翼を担うイベントを開催する。
平成33年度の〈年次共通テーマ〉は、「江戸東京研究の総括とブランドの高度化」を事業目標とする。最終年度は、それまでの4年間にあげた成果を整理して、より明快な方法をとって、とくに視覚化できる形でまとめ示すことで、本事業のブランドの高度化を目指し、それを世界に向けて発信することが目標となる。初年度に設立した(仮称)江戸東京研究センターを世界的な拠点に押し上げるべく、研究とブランド力を深化させ、全面展開するのである。
この年度では、各プロジェクトの枠を取り払い、成果公開のための作業を全体で実施する。具体的には、江戸東京研究の世界拠点を標榜する重点国際シンポジウムを開催し、またブランドの高度化の手段として、環境・文化インフラとして水辺をつなぐ「歴史エコ廻廊」や「グリーンインフラ」の構想図、サブカルチャーやアニメなどの新たな東京のイメージや庭園(大学内、ホテル内も含む)、特徴ある水辺・緑地のマップ化を実現し、江戸東京の特性を活かした実践的なアクションプランを提案する。さらに、成果を集約し、一般に広く公開するために、英訳付きの『江戸東京の都市と地域の資源事典』、『江戸東京持続の秘密を解く』を刊行する。
この最終年度に、各年度のシンポジウム参加者数やホームページアンケートの評価に現れた質・量に関する達成度の測定を経年比較のなかで分析し、本事業のブランディングの完成度を学内外に表明する。
こうして、最終の成果公開の実施計画では、現代の東京に見られる個性溢れる多彩な都市の自律的な活動や現象のなかに、江戸東京の歴史的経験が裏打ちされていることを示していくことが主旨であり、その公表と制作、構想、刊行が目標達成度の測定そのものとなる。そして、そのこと自体が本学における江戸東京研究のブランド化を意味し、世界に向けた文化力発信の中心として、本学がその拠点を形成することができたかが重要な成果指標となるのである。