岡村民夫
法政大学国際文化学部教授。
1961年横浜生まれ。立教大学大学院文学研究科単位取得満期退学。修士(文学・立教大学)。
専門は表象文化論、場所論。
著書に『旅するニーチェ リゾートの哲学』(白水社2004年)、『イーハトーブ温泉学』(みすず書房2008年)、『柳田国男のスイス―渡欧体験と一国民俗学』(森話社2013年)、『立原道造―故郷を建てる詩人』(水声社2018年)、『宮沢賢治論 心象の大地へ』(七月社2020年)など。訳書にマルグリット・デュラス『デュラス、映画を語る』(みすず書房2003年)、ジル・ドゥルーズ『シネマ2*時間イメージ』(共訳、法政大学出版局2006年)、『シネアスト宮崎駿 奇異なもののポエジー』(みすず書房2020年)など。
山道拓人
法政大学デザイン工学部建築学科准教授。建築家。
1986年東京都生まれ。2009年東京工業大学工学部建築学科卒業。2011年同大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。2011~2018年同大学博士課程単位取得満期退学。2012年Alejandro Aravena Architects/ELEMENTAL(チリ)。2012~13年Tsukuruba Inc.チーフアーキテクト。2013年ツバメアーキテクツ設立、同社代表取締役。住総研研究員。修士(工学・東京工業大学)。
代表作に「下北線路街 BONUS TRACK」「ツルガソネ保育所・特養通り抜けプロジェクト」「天窓の町家-奈良井宿 重要伝統的建造物の改修-」「NHK Media Design Studio」「パナソニックのデザインスタジオ FUTURE LIFE FACTORY」など。受賞歴にU35伊東豊雄賞、グッドデザイン賞など。主な著書に『PUBLIC PRODUCE 公共的空間をつくる7つの事例』(ユウブックス)、『CREATIVE LOCAL: エリアリノベーション海外編』(学芸出版)、『シェア空間の設計手法』(学芸出版)など。
表象文化(映画、アニメ、漫画、絵画、写真……)は、表象される対象を表現するとともに、表象する視点を表現します。私たちは主に近年の江戸東京に関する諸表象を研究していきます。表象が狭義の現実に対して持つズレこそが、江戸東京をめぐる現在の価値評価や、過去と未来への想像力を開示してくれることでしょう。
「近未来デザイン」は、江戸と東京の可能性を現在にハイブリッドさせたような日本独自の都市論を展開することを意味します。コロナ以降、我々は職住近接の生活様式へ移行を余儀なくされ、家の中で働くことも当たり前となりました。住む場所と働く場所が分かれる前の江戸時代に作られた暮らし方や空間的資源=コモンズの可能性を再考すべきタイミングなのではないでしょうか。
そして、表象文化と近未来デザインという異なる時間軸を持つ専門家がシンポジウムやプロジェクトを通して共同することで、新しくも過去や記憶に裏打ちされた東京の姿を描けるのではないかと考えています。
現代の表象文化に焦点を当てることによって、江戸東京をめぐる記憶、感受性、想像力などを掬い上げることが期待されます。たとえば、優れた写真家や映画監督が撮った路地の映像は、近代化や都市開発の観点からは見過ごされがちな湿り気、経年変化、迷路、公私や用途の曖昧なブランクの価値を示唆していますし、特撮SF映画やアニメや漫画は、しばしば東京の災害の記憶や、境界が帯びる無意識的なものの神話的・民俗的表現となっています。それらは、近未来の東京をデザインしていくうえで重要な参照枠となりえることでしょう。
同時に、現代の日本で今まさに実践されようとしているデザイン論や建築実践論を都市東京の近未来デザインと呼ぶならば、そこで垣間見られる人々の営みを「聖地巡礼」や「コンテンツ・ツーリズム」といった新たな表象文化として取り出すことができるでしょう。