開催日:2023年12月23日(土)
会場:法政大学市ヶ谷田町校舎5階マルチメディア教室(オンライン併用)
2023年12月23日に開催された、江戸東京研究センター・シンポジウム「島からみる江戸東京~交流・広がり・領域」は、当センターの研究プロジェクトにおいて、江戸東京の島嶼部(今回は特に伊豆諸島)を取り上げる最初の機会となりました。念頭にあったのは、島と都市を「関係性の連鎖」として捉えることができないかという問題意識です。
一般的に「島」というと、内地や都市とは様々な面で異なるという“差異”が強調される一方で、そのつながり方それ自体が問われることはそれほど多くはありません。しかし、異なるがゆえに相互に補い合う、またあるいは隔てられているからこそ併存できる、というように、相対的な「違い」や「個性」が生み出す“つながり”もまた、「島」の持つ重要な側面と言えるのではないでしょうか。単純な二項対立図式を超えた、「交流」「広がり」そして「領域」のかたちを描き出し、江戸東京のイメージをより豊かに広げていくことが目的でした。
そこで今回のシンポジウムでは、江戸東京と深いかかわりを有する伊豆諸島を題材として、島に関する研究や実務に携わってこられた8名の方々に発表をお願いしました。まず、基調講演として田中優子氏にご登壇いただき、中近世期における東アジアと江戸を題材として、グローバルな視座から大陸や都市に付随する島の歴史的な性格が示されました。特に島が本来的に「外」でありながら同時に対外的には「入口」でもあるという指摘がなされ、都市と島の関係性を捉える重要な枠組みが提示されました。
続いて各報告の前半では、まず米家志乃布氏から、伊豆諸島を描いた各時代の地図資料を用いて、江戸東京における島の位置づけの変遷について報告がなされました。続いて、高道昌志氏からは、伊豆大島の波浮港集落の近代化について報告があり、島の景観や生活様式の形成に都市東京からの視点や再評価の機運が強く影響したことが示されました。金谷匡高氏は新島のコーガ石産業と集落景観の関係についての報告を行い、固有の資源を用いて島独自の景観が生み出されていく過程が紹介されました。前畑明美氏の報告では、島が同質化(架橋時代)の時代を向かえた現在の状況を批判的に捉え、古代の神津島に築かれていた内地との相互ネットワークを踏まえつつ、いまいちど島のネットワークの在り方を再考する意義が説明されました。岡村民夫氏は、昭和初期における宮沢賢治の伊豆大島訪問の背景とその意味について報告を行い、それが島の園芸産業が発達していくひとつのきっかけとなった可能性を指摘しました。
さらに後半では、まず歌川真哉氏が報告を行い、八丈島において酪農産業の再生に取り組んだ経緯や、内地とは異なる島の固有性の価値や観光業の可能性について言及されました。最後の報告となった倉本栄治氏からは、訪問者(ツーリスト)の視点から、伊豆諸島それぞれの個性と魅力、またそこで体験できるアクティビティや交通事情などを紹介し、東京から見たときの伊豆諸島の多様性について紹介がなされました。
各報告の終了後、報告者全員でディスカッション(司会:高道)を行いました。すべての報告を踏まえ、改めて東京と島の関係性をどのように捉えることができるか、各報告者にコメントをいただきました。特に重要な指摘として、現在は伊豆諸島の産業や意識が都市東京に集中しているように見えるが、かつては島同士の相互のつながりがあったことを踏まえ、そのようなイメージで現在の伊豆諸島を捉えなおすことの意義が指摘されました。また会場からのコメントとして、国際比較の中で都市と島の関係性を捉えることの重要性や、島固有の産物やその現代的な価値を積極的に発信することの重要性についても指摘がありました。
今回のシンポジウムは島を題材とする初めての試みであったことから、明確な答えが得られたわけではありませんが、島の固有性が持続し、より良い方向へ変化していくためには、都市との関係性だけでなく、群島としての相互の関係性を再評価することが不可欠であることが確認されました。特に、都市にとって「島」という存在がどのような意味を持つのかについては、比較的な視点を導入することで、他の地域や国との関係性を考えていくことが必要であるといえるでしょう。今後も引き続き、地域ごとの特性や相互の連携を理解し、より持続可能な未来への洞察を深めていくことが求められます。(高道昌志)