2018年11月24日(土)・25日(日)、法政大学市ヶ谷田町校舎において、法政大学江戸東京研究センター第3研究プロジェクト「テクノロジーとアート」のシンポジウム「アートと東京」及び「文学と東京」が開催された。24日の「アートと東京」で6名、25日の「文学と東京」で4名が報告を行い、「アート」と「文学」を手掛かりとして、今日、東京という都市がいかなる文化的意味を持ちうるかが検討された。
各報告の概要は以下の通りであった。
1. シンポジウム「アートと東京」11月24日(土)
1.1. 【第1セッション】
(1) 荒川裕子(法政大学)/アートを受容する場の多層性
文化芸術基本法が芸術及びメディア芸術として文学、音楽、美術、写真、演劇、舞踏、映画、漫画、アニメーションなどを例示することを手掛かりに「アート」の概念の射程を検討するとともに、美術館という制度の枠外にあって日本独特の仕組みである「百貨店での美術展」を通して、アートを受容する場の多層性が考察された。
(2) クレリア・ゼルニック(パリ国立美術学校)/Tokyo Underground
「アンダーグラウンド」という語の意味を
(1)伝統的な回路とは別の回路で構成・発明・展示されるアート、
(2)政治化され、異議申し立てにもなりうるアート、
(3)都市の周辺にあって機能性から解放されるアート、
の3つに分けるとともに、2005年に東京で結成されたアーティスト集団Chim↑Pomの活動から、東京における「アンダーグラウンドなもの」の可能性を検討した。
1.2. 【第2セッション】
(1) 小高日香里、北澤ひろみ(東京都現代美術館)/「MOTサテライト」-現代美術とまちとの交わり-
東京都現代美術館が、2017年春(「往来往来」)、2017年秋(「むすぶ風景」)、2018年秋(「うごきだす物語」)の3回にわたって行ってきた清澄白河における「MOTサテライト」について、開催までの経緯や成果、さらに「まちなかで作品を展示すること」の意義が検討、報告された。
(2) 椿玲子(森美術館)/東京における森美術館のあり方について
2003年に「人びとが同時代の文化を体験し、検証することができる現代アートの美術館」として開館した森美術館について、同館の掲げる目的とこれまでに開催した展覧会の内容の検証を通して、「森美術館の存在することの意義」と「森美術館のできること」の可能性が検討、報告された。
1.3.【 第3セッション】
(1) 岩井桃子(横浜国立大学)/アートの視点で見る都市の公共空間づくり
都市、建築、アートなどにまたがる催事の企画やコーディネーションを行う報告者が、ロッテルダムビエンナーレ(2005年)における江戸東京に関する展示や江戸東京博物館の「東京エコシティ展」(2006年)など、これまで東京で行ってきた企画や江戸東京に関する催事を紹介しながら、東京における魅力ある公共空間づくりがいかなるものかが検討された。
(2) 古屋俊彦(明治大学)/ネクロポリスとしての東京
「激しい活動体」という際立った性質を持つものの、長い時間の中での都市としての継続性の不明確さという欠点を抱える東京について、ネクロポリス(埋葬場所)に焦点を当て、一つの巨大な芸術作品として見なすことで新たな意味を与え、機能性や活動とは異なる特徴を見出す試みがなされた。
2. シンポジウム「文学と東京」11月25日(日)
2.1. 【第1セッション】
(1) 中丸宣明(法政大学)/立身出世の都-江戸・東京
二葉亭四迷の『浮雲』(1887-1889年)や宮崎湖処子の『帰省』(1890年)、樋口一葉の『にごりえ』(1895年)、夏目漱石の『坊ちゃん』(1906年)、『三四郎』(1908年)などの文学作品を通して、上京する青年たちの夢と挫折がどのように「小説」の中で描かれたかが実証的に検討された。
(2) 田中和生(法政大学)/リアリズムの変容-夏目漱石『三四郎』から吉田修一『横道世之介』まで
近代文学を「リアリズム黎明期」(夏目漱石、永井荷風、水上滝太郎)、「リアリズム成熟期」(三島由紀夫、村上春樹)、「リアリズム解体期」(後藤明生、田中康夫、吉田修一)の3期に分け、東京を舞台とする小説がどのように変容してきたかを概観するとともに、文学と東京の関係が考察された。
2.2. 【第2セッション】
(1) 山田夏樹(昭和女子大学)/「ドヤ街」から読む東京-高森朝雄原作、ちばてつや作画「あしたのジョー」と三島由紀夫「音楽」
高森朝雄原作、ちばてつや作画の漫画『あしたのジョー』(1968-1973年)と三島由紀夫の小説『音楽』(1964年)が描く「ドヤ街」とを対象に、2つの作品における「ドヤ街」の描写の持つ意味の考察を通して、東京における「下層民」の姿と東京の戦前、戦中、戦後の連続性及び断続性が検討された。
(2) 中沢けい(法政大学)/不定形に広がる東京をどう描くか-東京郊外の物語
村上龍、村上春樹、島田雅彦らの東京を舞台とした作品や報告者の小説『首都圏』を対象に都心部と都下における物語の特徴の違いが検討されるとともに、無際限に膨張し続けると思われた東京が停滞から縮小へと急速に変化する現実が持つ問題点と可能性が、実作者の視点から考察された。
2日間の報告と質疑応答を通して、アートや文学の対象となるだけでなく、人々に鑑賞の機会を与え、また新たな創造の契機となる東京の特徴や問題点、さらに今後の可能性が示された。
【執筆者:鈴村裕輔(法政大学江戸東京研究センター客員研究員)】