2019年3月30日(土)、法政大学江戸東京研究センター第3研究プロジェクト「テクノロジーとアート」のワークショップ「テクノロジーと東京」が法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー25階 研究所会議室5において開催された。
本ワークショップは、2018年11月24日・25日に行われたシンポジウム「アートと東京」「文学と東京」を受け、「交通」「建築」「テクノロジー」の3つのパネルを設け、東京とテクノロジーの関係を通して東京という都市がいかなる意味を持つか、が検討された。
各報告の概要は以下の通りであった。
1. パネル1≪交通≫
1.1. 陣内秀信(法政大学)/「交通体系の変化と東京の都市構造の変容」
東京が交通の形態に依存しながらいかに発展し、都市の構造を変容させてきたかが、陸上交通、海上交通、鉄道の展開と地形や都市機能の変化に注目してこうさつされるとともに、それぞれの地形の特徴や土地の持つ役割が交通のあり方に与える影響が総合的に検討された。
1.2. 岩佐明彦(法政大学)/「効率の最大化によって変質する都市空間」
新潟県の事例に基づき、「大量動員、大量消費」という特徴を持つ現代の日本において「郊外」がどのように形成されているかを検討するとともに、「インドア郊外」の概念を用いて車依存、郊外化が進む地方都市では「インドア郊外圏域」が主たる公共圏となりうる可能性のあることが指摘された。
1.3. 鈴木勇一郎(立教大学)/「明治東京の電鉄と社寺参詣」
「電鉄は発展途上の技術」、「社寺参詣と密接に関係」、「市街鉄道と電鉄は未分化」という3つの観点から分析することで初期電鉄の特徴を明らかにするとともに、市内と市外を直通する路線計画が多数存在したこと、各種の計画の中で「郊外」と「参詣地」が重要な役割を果たしていたことが示された。
2. パネル2≪建築≫
2.1. 北山恒(法政大学)/「柔らかい都市のテクノロジー」
保留床を担保に資金を確保して開発を行う都市ではなく、コミュニティを形成するための街を作る方法を検討し、個人と共同体が自然から分離される「都市の離陸」、個人と共同体、自然がそれぞれ分離する「超資本主義の離陸」の状態からそれぞれの要素が一体化する「着陸」することの重要さを通し、東京の近未来の姿のあり方が考察された。
2.2. 高村雅彦(法政大学)/「奪われる自由と想像される空間」
「発展の歴史」と「衰退の歴史」あるいは「対抗」をどう捉えるか、東京の独自性がテクノロジーの中でどのように捉えられるか、といった視点から、テクノロジーをよりよく用いるためには感性も重要であること、テクノロジーを通して都市・建築・文芸・アートが相互に作用し、そのすべてを受容できるのが東京であることが指摘された。
2.3. 岩井桃子(横浜国立大学)/まちに眠るテクノロジーの記憶を探る
街や風景の記憶を芸術家や作家の力で再現させる試みや街中でのパフォーマンスが都市の中での偶然性の発見をもたらすことなどが、報告者が実際に取り組んだ事例に基づいて紹介されるとともに、2019年2月に法政大学で行われた「55・58 フェアウェル Days 55・58年館の<最終講義>」での取り組みが報告された。
3. パネル3≪テクノロジー≫
3.1. 白石さや(岡崎女子大学/東京大学)/「人間とテクノロジーのインタラクションンをデザインする:シリコンバレーと東京」
シリコンバレーと親になった「コンピューター・キッズ」の子育てのあり方を現地調査に基づいて検討するとともに、シリコンバレーでは日本のIT産業にはマネジメントとビジネスビジョンの欠如が問題とされている一方、日本を知る関係者からは、東京では最先端の技術が絶えず人々の生活に応用されている点が肯定的に捉えられていることが紹介された。
3.2. 石井千春(法政大学)/「江戸時代の科学技術と現代のロボット」
江戸の電気学の始まりとしての「エレキテル」と機械工学の始まりとしての『機巧図彙』から出発し、米国のボストン・ダイナミクスによる「アトラス」のような現代のロボットのあり方や日本における高齢化とロボット、あるいは労働力減少の状況下で、解決策の一つとしてロボット技術の利用、さらにパワーアシストスーツの可能性が示された。
3.3. 田中和生(法政大学)/「テクノロジーとしての文学言語」
「リアリズム」「幻想性」「探偵小説」「記号性」を手掛かりとして文学におけるテクノロジーや東京と文学の関係を検討し、記号性には「常に新しい」「生れては消える」といった特徴が必要であり、パリやロンドンではなく東京のような都市でのみ成立することが可能であるといった点などが指摘された。
以上9件の報告と全体討議を通し、「テクノロジー」という視点から東京が持つ意味と可能性が検討されるとともに、「「都市設計」と「まちづくり」の関係」、「テクノロジーの「限界」と東京の特性」、「バイオテクノロジーの位置づけとテクノロジーへの楽観的な見方の問題点」といった今後の課題も提起され、意義深いワークショップとなった。
【執筆者:鈴村裕輔(法政大学江戸東京研究センター客員研究員)】