2019年7月18日(木)18時から、本学大学院政策創造研究科 増淵敏之教授(コンテンツツーリズム学会会長、文化経済学会<日本>副会長)講演による研究会「コンテンツツーリズムと東京」が開催されました。51名の出席を集め、会場は満杯でした。
コンテンツツーリズムとは、まだ耳慣れない新しい概念ですが、文学・映画・漫画・アニメ・テレビドラマなどの舞台となった土地を訪れる観光行動のことです。文学や映画の中に登場する場所を訪れる観光はかつてよりあり、熱海の寛一お宮の像のように、そこを訪れる人があまりに増えてモニュメントが出来た例もありますし、大河ドラマの取り上げた場所への観光は現在でも毎年盛り上がります。
その一方で、近年盛んになっているのは、アニメに登場する場所への「聖地巡礼」と呼ばれる観光行動です。アニメの背景はかつて全くの架空の場所でしたが、近年は風景の写真をもとにコンピュータ技術によって描かれるようになったために、場所の特定が可能になりました。その場所を公表する会社もありますが、一方で視聴者にその場所を探していただく楽しみを残す、という方針の会社もあります。
そして、ファンにとっては「聖地」の特定とそれに関する貴重な情報の交換が、SNSなどコンピュータ・ネットワーク上で行われるようになり、ますます盛り上がるようになりました。アニメ作品(アート)自体がテクノロジーの進展とともに成立していますが、さらにコンピュータ・ネットワークという新しいテクノロジーによって、ファンの行動が劇的に拡大しているということもできます。アニメファンは海外でも大勢いるので、インバウンド観光にも大きなインパクトを残しています。
地方を描くコンテンツを地方再生に生かそうとする町おこしといった政策は、地方自治体にとっては重点課題でありますが、東京は特にそうしたコンテンツを生かす政策はあまり目立ちません。しかし、一方でコンテンツの題材という点からいうと、東京に関わるものは日本でも最大で、さまざまな描かれ方をされています。新海誠監督作品『君の名は』では、高速道路や高架の鉄道網が登場する一方で、須賀神社の石段など対照的な構図の配置が見事で、作品自体が多くの観客動員をしましたが、海外からも数え切れない多くのツーリストを惹き付けたことは周知の事実です。
米家志乃布教授(本学文学部)がコメントにあたり、コンテンツツーリズムは近年大変注目される分野になってきていることを地理学の視点から強調しました。増淵教授は、海外都市のコンテンツツーリズムの動向に研究を広げていくことにも言及されました。この分野の研究が今後も大変期待されます。
(文責:山本真鳥)