シンポジウム・研究会等報告

2020年11月20日 研究会「米国写真アーカイブスでたどる占領期の東京」開催報告

  • 更新日:2021年02月12日

2020年11月20日(金)18時~19時30分 オンライン(ZOOM)にて開催(参加者74名)
発表者:佐藤 洋一氏(早稲田大学社会科学総合学術院 教授)
コメンテーター:渡邉 英徳氏(東京大学大学院情報学環 教授)

 終戦直後の我が国に進駐していた米国進駐軍は、公的(軍関係)にも私的(各個人)にも多くの写真を撮影している。これらの写真は米国に持ち帰られ、公的な撮影資料に関しては公文書館にアーカイブされているが、加えて個人が撮影した写真も遺族や本人の寄贈によって大学図書館や各種史料館にアーカイブされ、閲覧が可能になっている。一方、占領期に日本人が撮影する機会は限られており、現在では散逸したものも多く、残されたものも関係者により私的に保管されておりアクセス出来ない環境下にある。
 建築学科出身の佐藤洋一氏は東京の戦後空間に興味を持ったことをきっかけにこの「空白期」に対し、アメリカで公開されている写真をリサーチし、その写真を読み解き、共有(里帰り)させるという取り組みを行っている。研究会では佐藤氏が米国で収集した写真を豊富に用いながらその取組についてご紹介いただいた。
 研究のアプローチとしては「撮影された写真(潜在的史料)」の収集であるが、その眼差しは「撮影されたであろう写真(可能的史料)」に向けられている。研究会では異なる人物が同時期に同じ場所を撮影した複数の写真を題材にして、映る人物や撮られた視点場から多角的に都市の様態を読み取った例などが示された。撮影された写真には、当時の空間的な情報だけでなく、撮影者の足取り(行為)や眼差し(社会的・個人的)のレイヤーがあり、いかに現在に伝わったかというメディア史的側面も持っている。こうした写真を里帰り(撮られた場所に戻す)ことをきかっけに今とどう繋げていくのかという問題提起がなされ、展覧会、語る場、調査主体、アーカイブスなどの可能性が示された。
 ディスカッションでは同じく戦後の写真とその活用を実践する渡邉英徳氏より、AI技術を用いて写真をカラー化する取り組みの中で生まれた当事者との関わりについて紹介され、膨大に死蔵しているストックを調査しフロー化することで現代に生かしていく可能性などが紹介された。
 過去の写真を調べるという時間軸を遡る作業を行いながら、デジタルアーカイブス、SNS、自動カラー技術といったテクノロジーを援用することで、そのベクトルを未来方向につなげていくというアプローチやそこで見据えるビジョンは示唆的で、EToSの今後の展開を考える上でも大変刺激的な研究会となった。

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