「江戸東京研究センター」EToSの「都市東京の近未来」では、2021年3月13日にオンラインシンポジウムを開催した。コロナ禍のためオンラインシンポジウムは当たり前になっているが、臨場感がないのと視聴者が受動的になるので、事前に紙媒体のリーフレットを視聴登録者にお送りすることにした。そのリーフレットはシンポジウムで話される全容をテキスト化し、都市内に存在する実例を写真・図面で紹介した。視聴者はシンポジウムの全容を把握しながら、随時手元資料を見ながら参加でき、その資料が手元に残るという構造である。
近年、東京の都市内で登場している新しいまちづくりの動向について、栗山はるか、山道拓人、仲俊治がその実例のプレゼンテーションを行った。さらに、法政大学大学院都市デザインスタジオの学生による東京区部1,771の商店街の調査、そして、そのなかから5つの商店街を選んで商店街を中心としたコモンズの再生プロジェクトをプレゼンテーションした。さらに、この新しい活動に対して都市研究者である大野秀敏、織山和久、北山恒、陣内秀信、渡辺真理が、理論的に評価する論考を多様な立場から展開した。
「都市東京の近未来」では、プレ近代としての江戸、そして明治維新後の東京という都市を連続的に研究することで、ヨーロッパ文明を相対化した都市研究を行っている。そこでは、20世紀に西ヨーロッパで始まったモダニズムという建築運動を乗り越えるような、新しい建築や都市の論理をつくれないかと考えている。現在ある建築・都市の論理はほとんどすべてヨーロッパ由来のものであるが、これから始まる新たな都市の研究はポスト産業社会を迎えた日本、ここから未来の都市論理がつくれるのだと考えている。
明治維新は日本という国家のシステムを、封建社会から産業化を中心とした社会システムに切り替えた切断面であり、この切断面によって鏡面のように江戸と東京を比較することができる。明治以降、都市に産業を集積させる近代化のなかで急激な拡張と拡大を進め、人口が膨張した。2011年あたりをピークとして日本の人口は減少し、そこでは拡張しない社会=定常型社会への構造変換が求められている。江戸から東京という都市に変容したこの都市はさらにもうひとつの東京に変容しつつあるのだ。現代社会には複数のシナリオが存在する。さらなる経済の拡張を求めるものもあるが、経済格差の少ない豊かな社会、地球環境を保全する生活を求める未来も存在する。このシンポジウムは、もうひとつの東京として「コモンズを再生する東京」というシナリオを描こうとするものである。
リーフレットを事前に配布するという新しいオンラインシンポジウムの構造のせいか、視聴者には大学教員や都市研究者などが多数参加しており、途中退席の視聴者はほとんどいなかった。(北山)
リーフレットはこちらからダウンロードできます