シンポジウム・研究会等報告

2022年9月8日 シンポジウム「都市における社会と空間のディテール EToSが探る文理協同のイデア」開催報告

  • 更新日:2022年09月09日

 2022年9月8日(木)午後、法政大学市谷田町校舎5階マルチメディアホール、また同時にZoomによるオンラインを使用して、シンポジウム「都市における社会と空間のディテール EToSが探る文理協同のイデア」を開催しました。

 戦後、とりわけバブル経済以降の再開発の事例にはパターン化した画一性を強く感じます。その理由の一つに、地域独自の社会と空間におけるディテールの読み込みの欠落があるのは明らかです。ところが、近年、社会と空間のディテールを充実させる都市再生の新たな動きが目を引きます。その場で働き暮らす人々が身の回りの空間形成へ主体的に関与しうる空間デザインの手法が磨かれつつあるのです。また、空間を使いこなしそこを自分たちの居場所として再生していく活動も広まりつつあります。そうした活動や空間デザインを第一線で担っている人材が江戸東京研究センターにはいます。そこで本シンポジウムが企画されました。

 栗生はるか氏は、銭湯を中心にその保存・再生と、コミュニティの活性化を目指してさまざまな仕掛けをしてきました。それが実を結び、国内のみならず世界的にも評価されています。シンポジウムでは、かつての湯屋の二階がそうした交流の場であったことをつきとめ、現代の北区稲荷湯では銭湯に付属していた長屋をリノベーションして、そうした場を取り戻そうとする自らの試みが紹介されました。
続いて、山道拓人氏は、自身の建築作品を紹介しながら、単にフィジカルな建築物を計画するのではなく、そこにコミュニティの理想的な在り方、同時にそれを支える運営の方法までをも視野に入れ設計することの意義を説明しました。コミュニティが建築のカタチを決定し、また建築がコミュニティを誘導し、それをサステイナブルな運営で根底から支えるという手法です。

 こうした二人の実践に対して、歴史学者の小林信也氏が社会と空間のディテールを江戸の歴史から照射し、現代と比較しながら都市再生をより豊かなものとしていくための考え方を提示しました。とくに、湯屋二階や床店を取り上げ、栗生、山道両氏が関わる都市空間や建築空間の背後に存在した江戸の社会構造を多様な文献史料や図から読み解きました。

 そして最後に、田中優子氏が、そうした歴史的な価値の発見と掘り起こしを通じて、次にそれを実践として行動していくことこそが重要であると指摘して、本シンポジウムの意義を強調しました。それによって、ようやく江戸東京研究センターが目指す「さまざまな対象を人間(社会)と空間の両方から解き明かす、いわば文系と理系が協同するための研究」が実現するという、われわれにとってまさに基本とすべき思想です。

 総合大学である法政大学の利点を生かして、江戸東京研究センターは多様な分野を専門とする研究者、実践者から構成されます。そうしたメンバーが協同で研究しながら21世紀の都市再生にいかに取り組むか。そのための端緒を開くようなシンポジウムとなりました。準備期間が短かったにも関わらず、多くの参加をいただき、また質問も多数あって実に充実した会となりましたことをお礼申し上げます。(高村雅彦)


栗生はるか「銭湯や長屋に息づく地域コミュニティ」


山道拓人「町家・長屋的空間の実践について」


小林信也「巨大都市江戸の社会と空間の特性」


ディスカッション

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