シンポジウム・研究会等報告

2022年8月11日 シンポジウム「川のエコヒストリーとスピリチャリティ~江戸東京の都市構造と精神性~」開催報告

  • 更新日:2023年01月30日

2022年8月11日(木)に、法政大学江戸東京研究センター及びエコ地域デザイン研究センターと青山学院大学総合文化政策学会の共催で、シンポジウム「川のエコヒストリーとスピリチャリティ~江戸東京の都市構造と精神性~」が開催されました。このイベントは、日欧ミーティング「渋谷川魂」の一環として企画され、他に、8月1日~10日にワークショップ・展示会「渋谷川モンスターを探る」及びまち歩き+ワークショップ、路上イベントなどが行われました。


【開催の趣旨】

きっかけはドイツやフランスなどの若者たちからの問いかけでした。「モンスターとなった渋谷川」、彼らにはそう見えた。「渋谷川魂はどこへ行ったのか」「都市の変革はどうあるべきか」と私たちに問いかけたのです。これを受けて、東京に住む私たちにとって「渋谷川魂」とは何かを考えることにしました。

川は生態系として生きた自然であり、渋谷川・古川は江戸東京の骨格を形成する重要な川です。江戸市中の西南部の境界を劃した川であって、上中流部はのどかな田園、東京湾に注ぐあたりは、舟入りがあり、江戸湊の一部として荷揚場や河岸が栄え、武家屋敷も多く立地しました。

渋谷川については、これまでに多くの社会的、文化的な問いかけがなされてきました。文学やアート、アニメの題材としても取り上げられてきました。これをあらためて国際都市東京の地球環境時代における課題として受け止め、渋谷川の歴史、文化、環境を探り、未来に向けた都市の生態学的再生の展望を語り合いたいという事が趣旨でした。

【シンポジウムの概要】

 シンポジウムは、青山学院大学14 号館 12 階大ホールを会場とし、対面・オンライン併用系s期で開催されました。会場参加者は19名、講師10名、スタッフ8人、計37名で、オンライン参加者は50名、参加者合計は87名でした。はじめに主催者として宮澤淳一・青山学院大学総合文化政策学会長と陣内秀信・法政大学特任教授からご挨拶を頂きました。

(1)基調講演、報告:基調講演が2題あり、基調講演1として横山泰子・法政大学教授から「江戸東京の川と妖怪 」というテーマでお話をいただきました。代表的な妖怪として河童を取り上げ、その歴史を掘り下げるとともに現代の妖怪について、かつての怖い否定的なイメージからかわいい肯定的なイメージに変わってきているとの指摘があり、更に新たな妖怪まちおこしという視点も示されました。基調講演2は「ドイツのエコシティ計画における河川の生態学的復活と水管理 」と題してエクハルト・ ハーン・ドルトムント大学教授からリモートでご講演をいただきました。ハーン先生はエコ地域デザイン研究センターの客員研究員でもあり、かねてより交流を重ねてきました。今回のお話は、地球環境時代に至るまでの世界の都市計画を振り返り、都市計画と水資源の管理を根本的に見直す必要があるとし、未来に向けたドイツのエコロジカルな都市プロジェクトを示しました。続いて、ワークショップの報告があり、「渋谷川魂/都市の変革 」として、ピノ・ヘイエ、ウォルフラム・マイナー(ミュンヘン工科大学建築・都市開発科修了),セシル・カーマイディク(ヴェルサイユ国立建築学校修了)の3名から発表がありました。これに対して、彼らを指導したマティアス・アーマンガード・ヴェルサイユ国立建築学校教授よりコメントがあり、“TERRITORIAL RECONFIGURATION”というタイトルで講演もいただきました。そのお話の中に都市の変革のキーワードとしての「モンスター」という言葉が示されました。

(2)リレートーク:昼食をはさみ、午後からはリレートークが行われました。①「渋谷川の景観」西村幸夫(國學院大學教授)は、渋谷川が作り出した都市景観を詳細に分析し、渋谷川が渋谷の変化の「幹」となり得ることを示しました。 ②「水と地域の霊性」彦根アンドレア(A H ARCHITECTS)はリモート講演で、生命も人も水から始まったとし、信仰や龍伝承とのかかわりも深く、現代アートや建築における水の霊性を表現する作品例を紹介されました。③「渋谷リバーストリートのにぎわいづくりと國學院大學」田原裕子(國學院大學教授)は渋谷川のまちづくりの具体的な取り組みとして渋谷リバーストリートを取り上げ、産・官・学・地元が一体となって進めているまちづくり活動の事例を紹介し、地域による維持管理の重要性を語りました。④「江戸東京の構造と渋谷川」神谷 博(法政大学エコ地域デザイン研究センター客員研究員)は、渋谷川・古川が江戸東京の都市構造の骨格を形成する重要な川であることを示し、そこに寄り添う「水霊」ともいえる人々の想いがあることを示しました。⑤「川から見たテリトーリオ」陣内秀信(法政大学特任教授)は、江戸東京の構造をテリトーリオとして捉え、渋谷川・古川の歴史を掘り下げ、消えたまちに想いを馳せつつ今後のまちづくりへの視野を示しました。⑥「渋谷川流域のグリーインフラ」福井恒明(法政大学教授)は、今日的課題であるグリーンインフラの視点から渋谷川を解析し、下水道と化した渋谷川の現況と課題を示し、新たなグリーンインフラ施策の必要性を示唆しました。⑦「音風景で辿る/自然と交信する都市の感性」鳥越けい子(青山学院大学教授)は、サウンドスケープの考え方をもとに江戸東京の都市構造と精神性に触れ、自然と交信する都市の感性の重要性を語りました。 

(3)パネルディスカッション:リレートークに引き続き、まとめとして「渋谷川魂の蘇生とは」と題してパネルディスカッションを行いました。パネリストは國學院大學から西村先生、田原先生、法政大学から陣内先生、福井先生、青山学院大学から鳥越先生の5名が登壇し、コーディネーターは法政大学の神谷が務めました。難しいテーマに戸惑いつつも、様々な角度から意見を交わしたことでモンスターの真相に迫ることができました。西村先生は、川が1本の道を2つに分けたり結び付けたりする役割があり、まちの辿る歩みを物語として描く必要があると切り出しました。田原先生は、国道246を境に町がにぎわいと静けさの二面性を持っていると引継ぎ、平時の流量は少なく、もっと流量を増やして欲しいという意見がある一方、想定を超える降雨が発生した場合の洪水を懸念する声もあり、調整は容易ではないと語られました。陣内先生は、これほどに変化に富んでいる川は稀で普通ではない違和感があると指摘し、清正の井の流れとカリスマ美容師通り、いきなり開渠となる寂しさ映した写真家や裏原宿という傑作の物語性を作り出したプロデューサーなどに触れつつ、東急のつくったプロムナードの可能性や下流の古川から小舟で入ってつなぐと重要な場所になるという提案もされました。福井先生からは、渋谷という地域の様相が大きく変わってきている状況に対してモンスターと捉えることはキャッチ―で流域全体の議論につながるとしたうえで、処理水の配分だけに頼らず玉川上水への多摩川河川水の導入復活など東京都全体の水システムの中で考える必要があると指摘しました。鳥越先生は、鴨も来ているがコンクリートの浅い水でかろうじて歩いているように見えると語り、その姿が渋谷川の問題を象徴しているように見えると語られた。ハーン先生は国を動かして大きなエコプロジェクトに取り組んでいるがどういう戦略なのか学ぶ必要もあると指摘しました。ここでフロアの横山先生にどうすればモンスターが喜ぶか発言が求められました。横山先生は、渋谷川は存在の見えないところが想像力を掻き立て、見ようとしないと見えない不思議な川だと指摘されました。正体不明のモンスターで、人を引き寄せる力を持っており、スクランブル交差点の強力な磁力など海外の彼らがスーパークールと言う所以なのだろうとのこと。少し見ない間に大化けした化け物、その隠せぬ正体が臭気なのだろうと語られた。その異臭をすべて排除するのがよいのか、むしろそこにモンスターがいることの証左になるのではと指摘された。この後、臭気問題は盛り上がり、対策されつつも完璧に押しとどめることはできない状況に対して、むしろ臭気はモンスターを察知したというポジティブ発想でもよいのではという話に落ち着きました。ここで、フロアの参加者意見を求めたところ、自然災害に対して人間の開発に対する反省の方が大事であり、自然生態系を復活させる議論が必要との指摘がありました。この意見も踏まえて、まとめに入りました。西村先生は、海外の人から見たら渋谷がスーパークールと言うが、我々から見たら普通はそうは思わない。とはいえ、海外の美しい都市や自然一杯のところで育った人たちがなぜそう言うかそこに面白さを見出してもよいと語られました。田原先生は、もっと自然をという考え方は大事で、商業主義的開発の中でも敢えて緩傾斜護岸にして植物を根付けるなど一生懸命努力していると語られた。陣内先生は、水の都市全体をどう再生するか、80年代後半は過密分散しようとした時期があったが実際はバブル後むしろ都心回帰になった。どんどん超高層ビルが建つ都市は他にあまりない。長期的視点に立ち東京をどう考えていくかは大きなテーマ。日本の都市だけが成熟社会に向かって人口減少していながら逆行しているのは変だと指摘されました。福井先生は、複雑な東京の問題を皆自分の持ち場で考えていて全体の議論ができていない。渋谷川モンスターは川の中だけにいるのではなく、渋谷川の流域全体を考えるプラットフォームとして文化から防災の話まで語れる場として意味があるのではと語られました。鳥越先生は、再開発は区より民間の力が大きく、まちは誰のものか、資本主義の世界でそうせざるを得ないが、悪いことばかりではない。ではどうするか評論家ではなくマティアス教授が主張されたように個々人が評論家にとどまらず主体的に発信・行動することの重要性についても忘れてはならない、と指摘された。最後に神谷から、まとめに代えて、私たちがやってきたつもりでも外から見たらモンスターだという、外圧をうまく使って、国際的な議論を続けていきたいという意思表示が示されました。

【イベント関係】まち歩き・ワークショップ「渋谷川モンスターを探る」

シンポジウムに先立ち、まち歩き・ワークショップや展示会、路上イベントなどが開催されました。8月1日から6日までは、欧州から来日した若者たちが主催するまち歩き・ワークショップが実施されました。1日は、宇田川ルートでテーマは「界隈」、渋谷区観光協会の協力で参加者13名でした。小田急線代々木八幡駅から宇田川沿いに歩き、千代田稲荷に立ち寄り、渋谷百軒店商店会長のお話を伺いました。その後、ワークショップ会場の青山学院アスタジオに移り、ワークショップ終了後にキックオフイベントが開かれ、12名が参加しました。8月2日は、隠田川ルートを歩き、NPO雨水まちづくりサポートが協力し、参加者10名でした。コースはJR代々木駅から渋谷川上流部の玉川上水処理水導入地点等を歩きました。ワークショップ会場は筒井国際特許事務所をお借りし、夜にはナイトウォークが行われ、NPO渋谷川ルネッサンスの協力で参加者8名でした。8月3日は渋谷リバーストリームルートを歩き、東急(株)の協力で参加者10名、ワークショップ会場も東急㈱の渋谷ストリーム会議室をお借りしました。8月4日は、いもり川ルートを青山学院大学の協力で歩き、参加者11名でした。ワークショップ会場は青山学院アスタジオを使いました。8月5日は、古川ルートで東京都建設局河川部の協力を得て参加者は10名でした。ワークショップ会場は東京都の荏原調節池会議室をお借りし、施設の見学も実施しました。8月6日は、明治神宮ルートを歩き、シブヤ大学の協力を得て参加者10名でした。ワークショップ会場は渋谷区の協力によりケアコミュニティ原宿の丘を使いました。まち歩きワークショップの参加者総数は延べ84名でした。                          8月7日には路上イベント「渋谷川モンスターを描いてみよう」を実施しました。開催場所は渋谷区の協力の下、渋谷区立宮下公園遊歩道でこの地点は渋谷川と宇田川が地下で合流している直上です。昼と夜の2回イベントを実施し、スタッフ6名で昼のイベントは路上にロール段ボールを敷き、その上に参加型で絵を描きました。欧州来日組は「渋谷川魂コンセプト図」の描き込みを行い、通行人参加者は「渋谷川モンスターイメージ」の絵を描きました。また、大道芸イベントも行い、ここにも通行人の参加がありました。夜は同じ場所で、歌舞イベントを行い、出演者4組7名 観覧者約50名でした。内容は、ギター演奏と歌が2組、神楽ユニット1組、舞踊1組。この地点の地下に眠る渋谷川への想いを様々に表現しました。                                    8月10日には、まち歩きWSのまとめとして、成果物の展示、映像記録の映写及びマティアス教授による講演を行いました。会場は国連大学1階アネックステラスを借りて、スタッフ4名プラス参加者6名で実施されました。

これらの一連のシンポジウムとイベントは、主催者の法政大学江戸東京研究センター及びエコ地域デザイン研究センターと青山学院大学総合文化政策学会により実施されましたが、共催としてドイツバイエルン州駐日代表部、DWIH TOKYO(ドイツハウスオブイノベーション)、ヴェルサイユ国立建築学校、emergent.lab(欧州からの来日若者のチーム)が加わり、後援として渋谷区、東京都、国土交通省、ドイツ連邦共和国大使館、イタリア大使館の支援をいただきました。また、協力団体として、国連大学、國學院大學、 NPO法人渋谷川ルネッサンス、NPO法人雨水まちづくりサポート ,シブヤ大学、東京都建設局河川部、渋谷区観光協会、東急(㈱)、筒井国際特許事務所が名を連ね、多くの方々のご協力を頂くことができました。一連のイベントについて多大のご支援を頂いたことに深く感謝いたします。本イベントはこれで終わることなく、次年度以降も継続する予定です。引き続きのご支援をよろしくお願いいたします。 (神谷 博)

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シンポジウム会場:青山学院大学14 号館 12 階大ホール

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パネルディスカッション

 

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まち歩き・ワークショップの状況

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路上イベントの状況

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展示会の状況

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