シンポジウム・研究会等報告

2023年1月30日 シンポジウム「祭りが生まれる時~銭湯山車巡行の試み」開催報告

  • 更新日:2023年02月24日

2023年1月30日(木)、Zoomによるオンライン開催を使用して、シンポジウム「祭りが生まれる時~銭湯山車巡行の試み」を開催しました。

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 「銭湯山車」とは、廃業した銭湯から譲り受けた部材で山車を製作し、その山車で都内を巡行するという取り組みであり、2021年以来、2度の巡行を行ってきた。本シンポジウムは、EToSの「表象文化と近未来デザイン」プロジェクトチームが企画したもので、銭湯山車の企画者である文京建築会ユースのメンバーを招き、その取り組みを伺い、銭湯山車の可能性と今後の展望について議論することを目的とするものである。

 講演の冒頭で司会の岩佐明彦(法政大学デザイン工学部教授)より本シンポジウムを行うきっかけとなった2020年に開催したシンポジウム「東京の新勝「史蹟と銭湯」」について紹介があり、その後4名の登壇者が発表した。

1人目の栗生はるか氏(一般社団法人せんとうとまち代表理事,江戸東京研究センター客員研究員)は上記のシンポジウムの内容を復習しつつ、銭湯山車プロジェクトの背景として、東京における銭湯の現状について説明した。廃業を余儀なくされる銭湯が取り壊される際に、タイルや蛇口、富士山の絵など、銭湯で用いられていた器具や設備、内装などの部材を譲り受け、それを保管する活動が発展し、タイル絵を博物館に寄付するなどリユースを試みる「まちつぎ」を実践するようになったことが説明され、銭湯山車の誕生の背景が明確となった。

 続く2人目の内海皓平氏(建築家)からは、銭湯山車の設計・計画的な側面からの解説があった。まず銭湯山車のコンセプトが、「今はなき銭湯を弔い、今を生きる銭湯を寿ぐ、銭湯のための祭りを。」であることと、山車という形態にした理由が祭りとエンタメの2点から説明され、銭湯山車が企画される直接のきっかけとなったアートイベント(東京ビエンナーレ)やそこでの試行錯誤を紹介しながら、銭湯山車の詳細なデザイン計画や性能(分解可能であることや湯が出せること)が説明され、「まちつぎ」のコンセプトがどの様に銭湯山車に反映されているかが明らかになった。

 3人目の村田勇気氏(彫刻家)は山車制作のプロセスを紹介した。村田は行きつけの銭湯が廃業する際に、彫刻の材料として銭湯の柱材を貰い受けたことがきっかけでこのプロジェクトに加わったという経緯の紹介から、破風や懸魚を彫り、細かいディテールを検討する中で、まちつぎのメディアとして、単純な廃材の集合ではない意味を銭湯山車が具有していく過程を明らかにした。

 最後の三文字昌也氏(都市デザイナー)からは、完成した銭湯山車を都内で巡業するプロセスについて説明があった。まず、山車が現行の都市の制度の中での車両の一種としての位置付けや、走行(巡行)するために必要な許認可手続きが示され、それをクリアしていくプロセスを説明しながら、巡行ルートがかつての銭湯跡と現役銭湯をトレースするルートとすることで、「今はなき銭湯を弔い、今を生きる銭湯を寿ぐ」というコンセプトとの対応が明らかになった。発表の最後はいよいよ巡行風景の紹介で締めくくられた。かつての銭湯のオーナーや地域住民に見守られながら、炎天の都内を巡る様子が紹介された。コロナで多くの祭りが中止になる中で行われた新しい祭りは、周辺住民はもちろん、道路管轄関係者からも歓迎の声が上がっていたという。

 ディスカッションでは、まず陣内秀信氏(江戸東京研究センター特任教授)が、建築における保存再生活動がタンジブルズ(有形資産)を対象とした保存にとどまっているのに対し、銭湯山車が祭りとしてのアクティビティを持ち地域とのつながりを生み出すことで、インタンジブルズ(無形資産)にまで保存の対象が広がっている点を指摘した。

 コメンテーターの岡村民夫氏(法政大学国際文化学部教授)からは、唐破風屋根の歴史を紐解きつつ、山車が銭湯のブリコラージュであることが現在と過去をつなぐ役割を果たしているとのコメントがあり、山車のシャワーから湯が出ることから温泉地の「湯かけ祭り」を連想したことや、湯かけ祭りが決して歴史的なものではなく、新しく創作されたものであることを踏まえ、銭湯山車がプリミティブな祭り誕生のプロセスを踏襲している可能性が提起された。

 コメンテーターの横山泰子氏(法政大学理工学部教授)からは、元々、銭湯は妖怪談が多く語られる場所であり、その慰霊が祭りに昇華するのは歴史的な必然性があるという指摘があった。また、銭湯が減少する一方で、若者の間ではスポーツジムが銭湯のように利用されており、銭湯とスポーツジムには競合性はないかという問いが出され、銭湯には体を清める以外の役割が期待されているのではないかという議論があった。

 登壇者、参加者を交えた議論では、銭湯山車のプロジェクトが、解体した部材に巡行を通して魂を入れていくようで、ある種の宗教性を帯びつつあるという指摘や、文化財の保存へ論点を拡張すべきという意見があった。京都の祇園祭の山車のように、このイベントを続けると、銭湯山車もレジェンドになるのではないかというコメントもあった。また、ぜひ今年度も巡業を続けてほしいという声も多く挙がり、銭湯山車の今後の展開に期待が高まるシンポジウムとなった。(岩佐明彦)

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パネルディスカッションの様子

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銭湯山車

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