1980年代に提唱された「江戸東京学」の基本的な姿勢は、江戸と東京を単純に二分するのではなく、結びつけて見るものでした。江戸=近世、東京=近代といった時代別研究法では把握できない都市の本質にせまるため、「江戸東京」という言葉が使われたのです。多くの研究者が江戸東京学という場に集まり、学際的な都市の学問、新たな地域研究が切り開かれました。その研究者たちの中に、江戸文学・江戸文化研究を国際的かつ斬新な視点から推進してきた田中優子法政大学総長、イタリアの都市と東京を水都という観点で見直し新鮮な都市論を展開した陣内秀信法政大学名誉教授の姿があったことは、言うまでもありません。
江戸東京研究センター
第2代センター長
横山 泰子
今から振り返ってみますと、江戸東京学の時代にはあまり意識されなかったことが、時代の変化とともに大きな問題となっていることに気がつきます。例えば、環境問題です。1980年代にももちろん、江戸東京の自然、都市と環境といったテーマは研究されていました。しかし、現代にいたるまでの間に環境問題はいよいよ深刻化し、東日本大震災が起こりました。この現実を直視し、持続可能性といった観点から、江戸東京研究を行う必要があります。また、昔から言語や文化を異にする人々が集まってきた江戸東京ですが、特に近年、文化の多様性が意識されるようになりました。地球環境問題の悪化と、グローバル化がすすんだ現代において、私達が意識しなければならないのは、環境問題と国際化の点ではないでしょうか。
都市の環境問題の研究を重ねてきた法政大学エコ地域デザイン研究センターと、日本文化研究を国際的な観点ですすめてきた法政大学国際日本学研究所が連携する本江戸東京研究センターでは、現代的な問題意識で、江戸東京研究をすすめていきたいと思います。外国からの研究者や留学生などとの交流の場を持ち、世界と接点を持つ大学の強みを生かし、国際都市としての東京の特質を多様な視点で考察していくことも可能と思われます。
現在の江戸東京研究センターには、4つの研究プロジェクトがあります。江戸東京というと、歴史すなわち過去を向いた研究というイメージがつきまといがちです。そこで、歴史をふまえたうえでの東京の現状、近未来の東京について考えられるよう、研究活動を行います。
江戸東京という巨大な都市を研究対象にする以上、異分野の研究者が学外の方々とともに対話をしながら問題を考えていかなければなりません。このたび陣内秀信教授からセンター長のバトンを渡された私も、かつては江戸東京学に心惹かれる学生の一人でした。その頃の初心を忘れず、「世界と同時に、社会に、そして地域に開かれた研究組織を目指す」という初代センター長の志を継承してまいります。
どうか皆様のご理解、ご協力、そしてご参加を心よりお願い申し上げます。